16乗で巡回拡大と累巡回拡大をもう一度考える

目次

巡回拡大体で足踏みしてます

書籍Iでは、次は180乗根の解析なのですが、その過程で「巡回拡大体」についての理解が足りないと思い、16乗根に戻ってきました。

書籍Iには、

𝕂が𝔽のガロア拡大体で,Gal(𝕂/𝔽)が巡回群の時,𝕂は𝔽の巡回拡大体である,𝕂は𝔽の巡回拡大であるいいます。

とあります。

一つの拡大で巡回群にならないときには何段かのステップに分けて、それぞれの拡大が巡回拡大になるようにするというのが、この辺の力点で、累巡回拡大といっています。

もう一度書籍Iの問6.17の説明を読む

ζを1の原始16乗根として、Gal(ℚ(ζ)/ℚ) を考えます。位数はオイラー関数から8です。

書籍Iではσ(ζ)=ζ5と定めて<σ>がGal(ℚ(ζ)/ℚ)の部分群となることを示します。

ガロア群の元に名前をつけたいので、σi(ζ)=ζi とします。そうすると、このσはσ5です。

ζはこれにより、

ζ⇨ζ5⇨ζ9⇨ζ13⇨ζ 

と変換され巡回します。

したがって

5>={σ5913,e}

となります。これはGal(ℚ(ζ)/ℚ)の部分群です。

次に<σ5>の固定体𝔽を考えます。

σ54)=ζ4になることから、𝔽はζ4(=i)を含みます。

位数の考察から𝔽=ℚ(ζ4)です。

Gal(ℚ(ζ)/ℚ)  ⊃  <σ5>  ⊃  {e}
    ℚ         ⊂   𝔽    ⊂  ℚ(ζ)

書籍Iでは、𝔽=ℚ(ζ4)=ℚ(i)とわかった時点で、Gal(ℚ(i)/ℚ)の元には言及がないのですが、τ(i)=-iとなる変換で巡回することは明らかですから、それでいいのでしょう。

x16-1=0 の作る拡大体の#ℚ(ζ4)を中間体とする累巡回拡大の結論に書いたように、累巡回拡大は <σ5>または<σ13> のどちらかと、<σ7>または<σ15>のどちらかを組み合わせて作れます。書籍Iを改めて読むと、<σ5>、<σ15> の組み合わせを考えているようなので、これを例に包含関係を考えていきます。

体の包含関係

ℚ(ζ)で付け加わる元として書いてあるのは、ζから派生するけど、ℚ(ζ4)の元にならないものです。

ℚ(ζ4)で付け加わる元として書いてあるのは、ζ4(=i)から派生するけど、ℚの元にならないものです。

ℚ(ζ)
ℚ(ζ4) (=ℚ(i)) ζ15913
ζ371115
ζ261014
ζ412
ζ8

ガロア群の包含関係

まず、それぞれの元を列挙します。

Gal(ℚ(ζ)/ℚ) σ1(=e),σ3579111315 巡回群でない
Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ4)) σ5913,e 5>
Gal(ℚ(ζ4)/ℚ) σ15,e 15>

これを包含関係に書くと、書籍Iでは

Gal(ℚ(ζ)/ℚ)  ⊃  <σ5>  ⊃  {e}
    ℚ         ⊂   𝔽    ⊂  ℚ(ζ)

と書いていますが、等値なもので置き換えて

Gal(ℚ(ζ)/ℚ)  ⊃  Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ4))  ⊃  {e}
    ℚ         ⊂      ℚ(ζ4)         ⊂  ℚ(ζ)

とできます。ということは、{e} は Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ)) なのでしょう。ℚ(ζ)を固定してℚ(ζ)に作用するのはeしかありませんから、整合性はとれています。

これを踏まえて、包含図を作ると以下のようになります。包含関係が適切に表されていますが、σ15があそこにあるのが意外です。

Gal(ℚ(ζ)/ℚ)
Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ4))
Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ))
e σ5913 σ371115

5>は出てきますが、<σ15>は出てきません。

Gal(ℚ(ζ4)/ℚ)もこの図には出てきません。どうやらこの図では累巡回拡大としう部分が表現されないようです。

累巡回拡大の表現

各ステップごとの拡大を記述する必要があります。

ガロア群 Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ4)) Gal(ℚ(ζ4)/ℚ)
σ5913,e σ15,e
巡回 5> 15>

さて、各ステップの元から全体の元(ガロア群の元なので変換になりますが)を導出するには、各ステップの元を組み合わせて作用させます。つまり掛け算です。ζの累乗同士の掛け算なのでここでは順番を問いません。

ガロア群 Gal(ℚ(ζ)/ℚ)
σ1(=e),σ3579111315
導出 5913,e}×{σ15,e}
Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ4))の元×Gal(ℚ(ζ4)/ℚ)の元

巡回群の生成元の選択肢

「累巡回拡大は <σ5>または<σ13> のどちらかと、<σ7>または<σ15>のどちらかを組み合わせて作れます。」というのを蒸し返してみます。

Gal(ℚ(ζ)/ℚ(ζ4))の元は{σ5913,e}です。<σ5>と<σ13>は同じ元の逆巡回であることが改めて納得できます。

15>はζの虚数部のi-iに換える変換です。一般にζiは単位円上の回転になりますが、15はちょうどx軸を対称軸とする線対称に変換します。ちょっと意外ですがうまく行っています。

7>は別のやり方を提供します。変換表を再掲しておきます。

ζi の移り先
ζiσ15i)σ7i)
ζ1ζ15ζ7
ζ2ζ14ζ14
ζ3ζ13ζ5
ζ4ζ12ζ12
ζ5ζ11ζ3
ζ6ζ10ζ10
ζ7ζ9ζ1
ζ8ζ8ζ8
ζ9ζ7ζ15
ζ10ζ6ζ6
ζ11ζ5ζ13
ζ12ζ4ζ4
ζ13ζ3ζ11
ζ14ζ2ζ2
ζ15ζ1ζ9

固定体

固定する元と、その数を調べました。今後の加筆のためです。

σ38 1
σ54 8 12 3
σ78 1
σ92 4 6 8 10 12 14 7
σ118 1
σ134 8 12 3
σ158 1

180乗根の場合へ

16乗根の場合は、外側から攻めています。つまり適当な巡回群を求めて、その固定体を特定し、その固定体を持つ元がもれなく一つの巡回群になっているものを見つけるというステップです。

巡回群に含まれない残りの元は下位のガロア群の元との積で作ります。

問題は求めた固定体を拡大体とみなせるような下位の固定体を見出して、そのガロア群の中から巡回群をつくるという作業が意外と面倒なところです。

逆に内側から始めて、まずℚにiを加えて、次にζを加える。というように加えていく方向はガロア群が巡回するという条件で進めばよいので見通しがいいように思えますが、2段目以降のガロア群を考えるのに慣れていません。下位のガロア群の元と上位のガロア群の元は別物になりますから、その対応も考える必要があります。

16乗根の場合は外側から一段下がった体と内側から一段上がった体が一致するようにすればよかったのですが、180乗根の場合はもう一段必要なので、どちらから考えてももうひと工夫が必要なようです。